2010年 05月 17日
巨匠の椅子をきる!
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実は、ウェグナーの作品の中では興味のない部類に属していた。
シェーカーの椅子をリデザインしたと云われ「質素」とか「凛とした」などと表現されるが、私の眼には地味な、なんてことない椅子ぐらいにしか映っていなかった。
それがある時、青山にあるショールームで何気なく腰掛けてみると、その坐り心地に感激し、つい買ってしまったのだ。
海外の椅子を買うときの注意点は座面の高さ。
特に欧米の場合、彼らの身長が高い上に、靴を履いたまま坐ることを前提に作られているから、我々日本人にはどうしても座面が高く感じてしまう。
加えて、私は少し低めのテーブルが好きで、住宅の設計とともにダイニングテーブルをつくる時は70センチか、できれば68〜69センチでつくりたいと思っているほどである。
この場合、問題になるのがアームがテーブルの下に納まるか否かである。
Yチェアのようなアームの場合には、どんなテーブルであっても下に入れ込むことはできないが、CH-37はテーブルの下に 入れ込むことを考慮したものと考えられる。
つまりアーム付きにも拘わらず、テーブルに密着させることができるわけである。
実家のテーブル高さは69センチ。天板の厚さは4センチもある。
床面からアームまでの高さが65センチ以下でないとテーブルの下に入れ込むことができないわけだが、CH-37は68センチ。
脚を3センチも短くするのはプロポーションの観点からも、また、デザイナーに対する敬意からも、ためらいが無かったわけではないが、座面の高さが45センチと少し高いこともあり「切る」ことを決意した。
丁度、家具デザイナーの野木村敦史氏と仕事をしていた時期だったので、彼にお願いすると快諾いただけた。
白書き(しらがき)と呼ばれる小刀のような道具でけがき、切る位置に印しをつける。
次いで導突鋸(どうつきのこ)で脚を切り落とし、数種類のペーパーで徐々に仕上げてゆく。
これを、もし自分でやったとしたら・・
切る位置に鉛筆で線を引き(水平に引けるか?)、フツーのノコギリで切り落とし(たぶん斜めになります)、ペーパーは1種類。
高精度の為の道具と、それを使いこなせる腕。両者があって初めて「いい仕事」ができるのは云うまでもない。
導突鋸はあさり(歯の広がり具合)が一番小さく、細かな作業をするのに向いており、建具屋や家具屋に重宝されていたらしいが、今ではほとんど使う人がいないらしい。
白書きも現場で眼にすることは、まず無い。
仕上げられた切り口は、初めからそうであったと思えるほど違和感がない。
触ってみると、つや消しフィルムのような滑らかな感触。
テーブルにセットすると、ドロワーの抽出のように静かに吸い込まれ、ぴたりと納まった。
低めのテーブルに低めの座面。私の足の長さには丁度よい。
by siteplan-archi
| 2010-05-17 06:30
| 道具,モノ